裏千家のお茶の先生をされていらっしゃった、
御婆様がお亡くなりになられた、遺品整理で、
骨董品の買取りに、静岡県静岡市駿河区にお伺いを致しました。
大切に使われていたお茶道具が沢山あり、
また生徒さんに販売される用の在庫も多く残っており、
押し入れと納戸に分けて保管をされておりましたが、
湿気やカビなどで傷まないように、すのこを引いて、
こまめに風通しを行っていらっしゃいましたので、
とても状態の良いお道具類ばかりでございました。
趣味で集めていらっしゃった骨董品や、
お部屋に飾る花瓶などの花器、
若いころから習われていたという三味線なども、
お使いになられてた方のお人柄が分かる、
センスの良い、上品な御品々ばかりでした。
その骨董品のなかに、一際目を引く、
素敵な木箱がございました。
螺鈿で細工がされており、ふたの部分を開けようと、
持ち上げますと、普通には空きません。
今回の遺品整理のお買い取りをご依頼頂きました、
ご長女様によりますと、長い間、家に有ったものの、
開け方が分からず、中には何が入っているかも
分からないとのことでした。
一見、普通の箱の様に見えて、実は普通の箱ではないもの。
それが秘密箱なのです。
秘密箱？何やら、あやしい響きですが、
実は技術が詰まった、遊び心ある工芸品なのでございます。
秘密箱(ひみつばこ)は、内部や表面に仕掛が施されており、
一定の操作を行わないと、蓋が開かないように作られた入れ物です。
別名「からくり箱」や「細工箱」などとも呼ばれております。
秘密箱は当初、宝石や硬貨などの、
貴重品を泥棒などから隠すために作られました。
現代で言う、鍵付きの金庫のようですね。
しかし、今の金庫はとても重くて、一人では動かせない物や、
耐火性の金庫など、かなり本気で守る仕組みになっておりますので、
その頃の秘密箱は、貴重品として目を向けないように、
一見、普通の箱に見えて、もしも目に留まっても、
実は仕掛けが有るので、簡単には開けられないような、
生活の知恵が詰まったものだったのでしょうね。
正確な起源は不明だそうですが、少なくとも、
18世紀末には存在していたことが確認されており、
19世紀末に発刊されたパズル書"Puzzle Old and New"には、
多くの秘密箱が掲載されています。
19世紀半ばに黄燐マッチが発明されると、
黄燐の自然発火を防いだり、子供達が火傷をしないように、
マッチに触れられないようにする目的で、
簡単に開かないマッチ箱(トリックマッチ箱と呼ばれる)が多数考案されました。
赤燐マッチの登場後、これらのマッチ箱は使用されなくなり、
生産もされておりませんが、今では現存数が少ないことから、
コレクターの収集の対象となっております。
日本では19世紀末に、箱根の大川隆五郎さんが考案した
秘密箱が最初とされています。
箱根で生産されている秘密箱は、
表面に同じ箱根の伝統工芸である、
寄木の技法による装飾がつけられております。
これは、装飾と同時に表面にある木材の繋ぎ目
(仕掛けの関係で面の中央など不自然な位置にあることが多い)を
隠す効果もあるそうです。一枚ものの板ですと、
継ぎ目に線が入ってしまいますので、
「そこから開くかもしれない」という大きなヒントとなってしまいます。
この秘密箱は、大正時代には組木細工などと共に、
欧米に輸出されておりました。
現在でも、お土産物として販売されていますが、
構造が複雑なため、伝統的な秘密箱を作れる職人さんも、
現在は少なくなっております。
箱根にご旅行に行かれた際は、記念に伝統工芸品の、
職人さんが作られた寄せ木細工のからくり箱を
お土産にされると喜ばれるかもしれませんね。
さて今回の、からくり箱は、明治時代ごろに作られた、
かなり古い秘密箱でございました。
大きさは小さめでしたが、細かく丁寧に作られており、
ご依頼主様が仰る通り、最初は全く開け方が分からないような、
複雑な構造になっておりました。
箱の中からは、カラカラと音がしており、
何かが入っているようでしたので、
このからくり箱をお買取りさせて頂くにあたり、
中に何が入っているかを分からないまま、
買い取らせて頂きますことは、お客様も気になりますし、
弊社もしっかりと、お伝えをしたいと思っておりますので、
しばらく箱の造りを眺めて、開け方を考えました。
普通ならば横にスライドさせる箇所を、上にスライドさせたり、
そこに現れる箇所を押したりと、
言葉では表現するのが難しいのですが、
無事に秘密箱を開けることが出来まして、
お客様に中身をお渡しできました。
中から出て参りましたのは、小さな巻貝の貝殻でございました。
お依頼主様の幼少期に、海に行かれた際、拾った貝だったそうで、
こんな所に入っていたとはと、少し涙ぐまれていらっしゃいました。
きっと、大切な思い出の品を、そっと秘密箱に忍ばせて、
いつかの再会を待っていたのかもしれません。素敵なお話です。
そんな大切な貝を、お渡しすることが出来て、当方も嬉しく存じます。
思い出を大切に、想いを大切に。骨董買取市場の専門買取は、
最後まで、真心を込めてお買い取りをさせて頂きます。
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お客様との温かい御縁を、お待ち致しております。有難うございました。 | 
